第1章 水色天国
約束の昼、栗原は来なかった。
正確に言えば、自身から桃城たちの教室にはやってこなかったのだ。席を作って彼女の訪れを今か今かと待っていたのだが、来ない。
しびれを切らした桃城が先にご飯を食べ出すと、いつもの通り、五十嵐が文句を言い始める。しょうがなく五十嵐が栗原のクラスへ行こうと教室を出ると、クラスの女子に囲まれている栗原がいた。
そこでようやく五十嵐は気付く。
栗原が少し、ほんの少しだけ困った……というよりも不快そうな表情を浮かべていることに。
そして五十嵐の目は覚める。
今までの自分が取ってきた行動も、彼女からしてみれば"あれ"と一緒なのだと。
思えば、王子と呼ばれて心から笑っていただろうか。五十嵐は記憶に自信がなくなっていた。
(私もあの子たちと"同じ"に見えてるのかな)
そう自覚すると、途端に声をかけるのが憚られてしまい、その場に立ち尽くすしかできなかった。その棒立ちの五十嵐を見かねた井田が、教室からひょっこりと顔を覗かせ、栗原の名前を呼んだ。
刹那、ようやく助けが来たと緩んだ口元を五十嵐は見逃さなかった。栗原との接し方を見直さなくては……。五十嵐はそう強く心に決める。