第1章 水色天国
海堂薫は唯一千紘を特別扱いしなかった。千紘を千紘そのものとして見てくれ、対等な存在として扱ってくれた。千紘はそれが初めてなのか、久々なのかもわからない。とにかく海堂が彼女唯一の救いだった。
千紘の悪いところは偏食するところ。それは人間に対しても同じで、狭く深くをモットーとしていた。海堂以外の人間の対応はしたくない。そう思っていたが、海堂の先輩である菊丸英二と手塚国光は違った。
菊丸は変に自身を女扱い、男扱いをせず、栗原千紘として会話してくれる。それは手塚も同じことで、千紘は非常に気が楽だった。
千紘が苦手とするのは、意外にも大石のような人間だった。本人の希望に沿って気を遣ってくれるのだが、その気を遣う様があからさまで、それがものすごく、ものすご~く不快なのだ。
(そういう腫れ物扱いが嫌なのに)
大石自身も、千紘との距離感を掴みかねているせいか、あまり積極的に関わってくることはなかった。ああも考えがわかりやすい人は、千紘としてはごめん被りたかったため、そういうところでは気が合うものだなぁと感じている始末。
接し方が難しいと周囲も千紘自身も思うために友達がいないのだ。