第1章 水色天国
高校入学以来、海堂以外の人物とお昼を食べる経験が極端に乏しい千紘は少しだけ困っていた。
(みんなでご飯って何話せばいいんだろう……)
残念ながら海堂しか友達がいないため、相談して有力な回答が得られる宛が完全になかった。日頃、海堂と食事をとる際は変に会話をする必要がなく、大変気楽である。
いつもなら何てことない数式がやけに歪んで、頭に入ってこない。こんなことは千紘にとっては初めてで、数学の授業も国語の授業も終始上の空だった。
千紘は特別扱いされることになれてしまった。自分が目立つ存在であることは昔からよく自覚していた。しかし、周りが抱く千紘像と、実態とが解離していることに、千紘は密かに悩んでいた。誰しも特別な千紘を望む。本人はそのままを見てほしいと思うのに、いつだってそうだ。
しかし、転機となったのは12歳の4月、たまたま隣の席になった海堂薫という男。