第1章 水色天国
生徒会選挙に向けた朝の挨拶運動は9月中旬に1週間のみ行われることとなっている。そこには会長へ立候補した手塚の姿もあった。手塚と栗原以外、我こそがとハツラツに挨拶をするが、2人に至ってはいつもと変わらないテンションでそこにいた。
「んだよお前もっと元気出せよ」
「ごめんね。期待はずれなら僕に付き合ってくれなくていいからね」
井田と五十嵐は校舎に近いところで宣伝をしており、校門のすぐそばには桃城と栗原しかいなかった。
「そうじゃねぇだろ。もっとこう……会計には栗原千紘をよろしくお願いします! みたいなよぉ」
「桃城くんは元気だね」
「あのなぁ……」
(あーコイツあえて論点ずらしてきてんな。まったく……いい性格してやがるぜ)
栗原がただただ一矢乱れぬお人形スマイルを浮かべているだけならと、桃城は声を出した。彼に寄ってくるもの、栗原に寄ってくるもの、両者相まってわざわざ近寄ってきて挨拶をしてくれる生徒の数はかなりのものだった。
「明日はもうちょいマジなお前が見られることを楽しみにしてるぜ」
「善処するよ」
彼女は形だけの笑みを見せ、礼の言葉を述べてから1人で一足先に校舎へと向かっていた。桃城はまったく相手にされないことに不服感を覚えつつ、声をかけてくれら友人と歩き始めるのだった。