第1章 misericorde
彼なりの優しさのつもりが仇となり、更にマヤを苦しませることになってしまった。
死なないで欲しい、と、早く死んでくれ、という相反する思いが火花を散らす。
焦燥と絶望から、リーバルは雄叫びのような声を上げると、マヤの胸に短刀を突き刺した。
マヤの苦悶に満ちた声は止まり、日が落ちるように命を落とした。
その表情はまるで、今まで生きてきた苦痛から開放されたようで、先程とは違いとても穏やかだった。
あぁ、終わった。リーバルは既に暗くなった天を仰ぐと、既に冷えきったマヤの亡骸を強く抱き締めていた。
───あのあとリーバルは、夜闇の中ゆっくりと村に帰り、マヤは帰らぬ人となったことを皆に伝えた。
短い間ではあったが、彼女との突然の別れは寂しく、その夜は皆で彼女の冥福を祈り、村の松明の火を落とした。
翌朝もう一度、リーバルは村民の男たちを連れてマヤが事切れた場所へ行き、もう動かなくなった彼女の亡骸を丁寧に運んだ。
そして、村の近くに墓を作ると彼女の亡骸を埋め、花を手向けると、みなで手を合わせた。
後でわかったことだが、マヤはとある呪いにかけられていたそうだ。
彼女が亡くなってから数ヵ月後に訪れた旅人が、宿屋の主人に「恐ろしい話がある」と面白そうに言っていた。
なんでも、山中のとある石像に供物を捧げると、そこに宿った悪霊の呪いが取り憑くというものだ。
そしてその呪いは、取り憑かれた者の死を奪い、永遠の苦しみに陥れるという恐ろしい呪いだった。
マヤの指先の傷が治らないのも、酷い怪我をしても、静脈を切ってもこと切れなかったのも納得がいく。
しかしその呪いは、ある一つの方法で断ち切ることが出来るという。呪いは消え、元あるべき死が返ってくるそうだ。
それは、幸か不幸か──愛する者からの、殺意と同情からによる心臓への一突きだった。