第4章 おむかえ
目を開けると、何故か制御端末の横で膝を抱えて座っていた。
何が起きたのか分からず辺りを見渡すと、“私”が横たわっていた。
そこで全てを呆気なく理解した。
ところで、今意識のある私は何なのか、と思わず両手を見つめた。
淡く緑色に輝いていて、少しだけ透けている。腰元には煙玉のようなふわふわとしたものが浮いており、払ってもそばを離れなかった。
「(私、幽霊になったんだ)」
改めて理解したところで、もうどうすることも出来ない。
しかし、弔いがなかった事により、もしかしてここにずっと居ることになるのか、と思ったらサァーッと血の気が引いた。
血なんか通ってないのに。
すると背後で、大きな鳥が舞い降りるような羽音と、フンと鼻を鳴らす懐かしい気配がした。
「こんなことになるなんてね」
声のするほうを振り返ると、そこには今は亡きリトの英傑─リーバルがいた。
彼は“私だった器”の横に跪き、髪を梳くような仕草をした。
そして、幽体の私に目を向けるとニヤリと微笑んだ。
「まさか、君がアレにトドメを刺すなんて思ってもみなかったよ。だけど、君とあいつでやっと、ってところか」
彼は両翼を広げて先の戦いのことを笑い話のように言うと、すこしはやるじゃないかと続けた。
「あの剣じゃなければ、最後の一撃は足りなかったのかもしれないね」
饒舌な彼に何か言葉を、と思ったが頭が混乱して何も出てこなかった。
彼は立ち上がり、私の方へゆっくりと歩いてきた。
「あの…リーバル、ですか…?私のこと…」
マヤは声を振り絞って言葉にした。リーバルは何も言わず、彼女をそっと抱きしめた。透けていて触れないはずなのに、温かい気がする。
「よくここまで頑張ったね。辛かっただろうに、君は長く生きて、最期に僕の仇討ちをしてくれた。ありがとう」
そこで彼は、私のことが見えているのだと気づく。不安のダムが決壊し、目頭が熱くなる。
感覚も全て失っているはずなのに、何故か彼の温もりと涙の熱が感じられる。彼は私を覚えててくれた、そして会いに来てくれた。これ以上嬉しいことがあるだろうか。
「マヤ、僕は君を迎えに来たんだ。僕が連れて行ってあげるから安心するといい。おいで、マヤ」
マヤは頷き、彼の翼を握った。夜が明けてヘブラの山が照らされると、2人はゆっくりと消えていった。
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