第1章 misericorde
村に戻ると、何やら騒がしくいつもと違う様子だ。
門番はリーバルの姿を見ると、急いで駆け寄ってきた。
「リーバル様、マヤさんを見かけませんでしたか?」
「見てないけど、どうしたんだい?」
昼頃、村を出たきり戻ってこないんです─という門番の言葉に、リーバルは唖然とし、その後門番が何を言ってきたのかまるっきり覚えていなかった。
気づいた時には上空にいて、突き刺すような冷気の中、マヤの名前を呼んでいた。
昼間に一度村へ戻った際、マヤが寝泊まりしている櫓には、マヤの荷物が一式置いてあるのを見た。
この寒さの中、村を出ていくにしても荷物を置いたままというのは考えにくい。
そうすると近場にいることが考えられるが、門番が言ってた通り、戻るのが遅すぎる。
あれこれと考えをめぐらせていると、ふと岩場の一角に赤い布がひらひらと引っかかっているのが見える。
冷気とは違う、全身の羽が毛羽立つ様な感じ。
嫌な予感がする。
すぐさま滑空し、赤い布がはためいている岩場に降り立った。
見覚えのある、赤いマフラー─マヤので間違いない。
どこかへ出かける時は、いつもこれを付けていた。
『出発する時、母が編んでくれたんです』と、はにかむような笑顔で、誰かに話しているのを横目で見たことがある。
そして、そのマフラーの近くに点を作っている赤黒い染みも、おそらくマヤのものだろう。
その赤い点はリーバルを誘導するように、岩の間を通り、崖の縁まで続いていた。
飛べない人間が落ちたら一溜りもないことが、崖下の暗さから嫌でもわかる。
リーバルは今、酷い後悔の念と、焦りと、恐怖でいっぱいになっていた。
思えばいつもそうだった。
色々言いつつも、彼女のことが気になって仕方がなく、気づけば目で追っていた。
屈託のない笑顔、間抜けな仕草、優しいところ、熱中している時の真剣な眼差し──また見られるだろうか。
リーバルは気が付かないうちに荒い息をしていた。
寒いところでは特に、ゆっくり力を抜いて呼吸しないと、体に無駄な力が入ってしまうというのに。
もうそれどころではなかった。
一刻も早く、マヤを見つけなければ──