第1章 misericorde
結局、村医者からは傷によく効く塗り薬と解毒剤をもらい、包帯をみっちり巻いてもらった。
その小さい傷が、何故こうも血が止まらないのかは不思議だが、しばらくすれば良くなるだろうと言われ、マヤはそうですよねーと笑うことしか出来なかった。
リーバルはというと、診療所にマヤを下ろすとすぐさま飛び去ってしまった。
今度会ったら、採ったいちごでお礼をしようと思い、その時は引き止めたりすることはしなかった。
だが、この小さな一連の出来事が、これから事態が大きく急変していくなんて、誰も考えなかった。
あれから1週間が過ぎたが、マヤの指先から出る血は止まらなかった。
むしろ、日に日に量が増えていくような気がして、若干貧血気味になってきていた。
ふらつく体をなんとか動かしながら、村の門までゆっくりと歩いていく。
村を出ようとする前に、門番からどこに行くのかを尋ねられたので、薬草を取りに近くを散歩してきますと伝えて出発した。
門番は心配そうに引き留めようとしたが、聞こえないふりをして歩き出す。
薬草を取りに行くのは実は嘘で、本当は村から出る安全な道を探しに行くつもりだった。
傷の具合もあり、良くなるまでここにいなさいと村長はそう言ってくれたが、かれこれ数ヶ月お世話になってる上、傷病人の世話ときたらきっと大変になってしまうにちがいないと思い、早々に村を出る決心をした。
荷物を持っていくといろいろと面倒だったので、今日は手ぶらで散策する。
やはり岩場が多く、どうしても手をつかないと降りることが出来ないみたいだ。
王国の中心部に行けば、きっと何か分かるかもしれないし、腕のいい医者や魔法使いがいるかもしれない。
遠くに見える景色を見ながら、足を進めて行こうとした…その時だった。
「きゃああっ!?」
湿った岩に足を滑らせ、何メートルか滑落してしまった。
あまりの激痛と衝撃に、マヤは意識を失う。
彼女は、不幸にも寒空の下に野ざらしにされてしまった。