第1章 misericorde
「君どうしたの!?服が真っ赤じゃないか」
いちごを採り終えて村に着くと、ちょうど吊り橋のところで、すれ違いざまにリーバルに驚かれた。
「へ?ど、どこですか?」
リーバルに声をかけられた嬉しさよりも、服の汚れを指摘された恥ずかしさに、「こんにちは」を言うより先に間抜けな声が出てしまった。
指摘をされた服を見ると、腰のあたりに擦ったような跡がある。
色合いからしてそれが血液だとわかると、その出処を慌てて探した。
思わずリーバルも、彼女の頭からつま先までじろじろと見ると、指先に巻いてある包帯が真っ赤に染っていることに気がついた。
「ここのとこ、怪我してるよ。止血が上手くいってないんじゃないかい」
羽先で右手の指されると、マヤは先程のことを思い出した。
「あ、これかあ…。ただの刺傷だし、数時間前に止血したんですけど…」
「数時間前の刺傷から、こんなに血が出るのはおかしいな。見せてごらん」
流れるような仕草で、マヤの手を取ったリーバルは、ゆっくりと包帯を外し始めた。
「…!!?」
思わず声を上げそうになったが、体が緊張で強ばり、声はおろか取られた手を動かすことさえできなかった。
リーバルは包帯を外し終えると、血に濡れた指先をじっと眺めるとこう言った。
「…やっぱり、まだ止まってないね。毒でも入ったのかな、どちらにしても医者に見せる必要があるな。村に診療所があるから、そこへ行って診てもらったほうがいい」
優しく手を離すと、彼はマヤに背を向けて片膝をついた。
「わかりました。あ、えっと、リーバルさん?」
「乗りなよ。僕がここまでしてあげるの、今日だけだからね。そのまま血を垂らしながら、村の中歩かれても困るし」
いつものように皮肉を垂れ流すと、ふんとため息をついた。
「汚しちゃうのは確かにまずいですけど、リーバルさんの背に乗っちゃうのもまずい気が…」
思わぬ展開に、マヤはしどろもどろに答えると、彼は「早く」というように両翼を軽く動かした。
「うぅ…すみません、お忙しいのに」
渋々マヤは、リーバルの背にしがみつくと、その瞬間下から物凄い気流が発生し、気づいた時には空を飛んでいた。