第4章 おむかえ
お互い黙ったまま数分の時が流れ、カンテラのオイルがパチンと弾けた。
柔らかく息を吸ったあと、口火を切ったのはリンクの方だった。
「…わかったよ。一緒に行こう」
至極優しい口調でそう言った彼の言葉に、マヤはつい「え?」と声を上げた。
「俺だけが行っても多分…いや、なんでもないよ。リーバルはきっと、君がいた方が嬉しいに違いないよ、きっと…」
少しだけ目を細めるリンクが、「きっと…」のあとに続けようとした言葉が何なのかは想像できたが、上手く返すことが出来ず、マヤは「ありがとう」と小さく呟くように言った。
翌朝、リンクとマヤはリトの村へ馬を走らせた。
着いて早々、リンクは「村長に話をしてくる」と言って、村の螺旋階段をすたすたと上がって行ってしまった。
馬を村の入口に括り、彼の帰りを待つことにする。
ひゅう、と冷たい北風が吹く。
日差しこそ暖かだが、すぐ側は極寒のへブラ。寒くないはずがない。
馬の首を撫でながら、ふと村を見上げてみる。
「(そういえば私、1度だけここへ来たことがあるんだった…)」
100年以上前のことだったので、思い出すのに時間がかかったが、そういえばあの時もこんなふうに冷たい風が吹いたっけ。
ふらり、と階段を1段上ってみると、木の感触は変わらず、軽い軋んだ音がする。
そのまま足を運んで行くと、木で組まれた広場が見えた。
中央にはリトの紋章が描かれている。
吸い寄せられるように足を運ぶと、冷たい風がヘブラの山から吹き込んできて、マヤの後れ毛をいたずらに揺らした。
頭の中でパズルのピースが繋がるように、細やかな場面を思い出し、それが全部繋がるとマヤは大きく息を吸った。
「(あぁ…ここで私は彼と……)」
目を閉じて、100年前の記憶に思いを馳せる。