第4章 おむかえ
なけなしの力を振り絞り、もはや当てずっぽうのに投げた氷雪の剣は、破壊をもって風のカースガノンにトドメを刺した。
剣はカースガノンの中枢核に突き刺さり、僅かな氷塊を散らして消えた。
トドメを刺されたカースガノンからどす黒い何かが溢れ、聞いたこともないような断末魔が響いている。
だけど、もうよく見えないし、聞こえない。
軋み痛む体が限界を迎え、マヤは膝からゆっくりと崩れ落ちた。
冷えたメドーの地面が、傷ついた体に心地よく、ゆっくりとマヤの体温を奪っていく。
それに抗うための血液はとっくに流れ落ちていて、ただただ天からの迎えを待つのみだった。
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数日前、リトの馬宿でリンクと再会し、思い出話に花を咲かせている中、彼から神獣解放の話を聞いた。
デスマウンテンの河口付近を這い回っていたルーダニアが大人しくなったのも、リンクやゴロン族の青年のおかげだったらしい。
彼は一刻も早く神獣を解放し、今もハイラル城で厄災ガノンを抑え続けているゼルダ姫を助けるべく、ハイラル中を1人で東奔西走しているとのことだった。
残るはヘブラ地方の空を飛ぶ、神獣ヴァ・メドーのみ。
一頻り話を聞いたマヤは、「メドーの解放、私も行くよ」と神妙な面持ちで言った。
危険が伴うため、リンクはもちろん止めたがマヤは聞かなかった。
だが、そんなやり取りをしているうちにリンクは思い出す。彼女が100年前、リーバルのことを想っていたことを。
自分の想い人が命を落としたであろう地に赴き、仇を取りたいのだろう。
そういう感情もあるのかと尋ねてみれば、マヤは少しだけ瞳をさ迷わせたあと、静かに頷いた。
あぁやっぱり、とリンクは溜息をつくと言葉を続けようとしたが、その前にマヤが言葉をつむぎ出した。
「あれから、彼のいない世界を長く長く生きて、年が戻って、また生きていかなければならない。それを考えたら…寂しくて、辛くて、もう怖い…」
彼女の瞳は暗い影を落としていたが、揺らぐカンテラの炎が映って物憂げだった。
その伏せたまつ毛の下にある瞳から、リンクはしばらく目を離すことが出来なかった。