第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
荒くなる呼吸を整えながら、恐る恐る違和感が疼く方の足を見て、マヤはギョッと目を剥いた。
先程リーバルが触れた方の足に、あの怨念の沼が絡みついていた。
ゆっくりとだが、脛の方から徐々に這い上がってくる。怨念の沼は熱を持ち、メドーの上部に来たことですっかり冷やされた足が、嫌悪感とともに温められていく。
マヤは声にならない悲鳴をあげながら、振り払おうと足をばたつかせたが、それに反して一気にももの辺りまで上ってきた。
「うそ、やだ…!どうして、あなたがやったの!?」
切羽詰まるマヤの様子に、リーバルの目は弧を描く。
「僕以外、いるはずないだろ?君にも分けてあげただけさ…」
「いや!お願い、これ取って!ねぇお願い!おかしくなっちゃう…!やだ、やだあぁ…!」
イヤイヤと子供のように首を振って懇願するマヤの様子に、リーバルは荒い呼吸を繰り返し、舌なめずりをした。
「熱い?苦しい?気持ちいい?」と宥めるようにマヤに質問を投げかけたが、彼女は取り乱し、ただただ首を振るばかりであった。
「っああ!!?」
沼は既に太ももの付け根から下腹部あたりにまで達しており、その熱と体感したことの無いもどかしいような感覚に、マヤは嬌声を上げ、僅かに腰をくねらせた。
こんなみっともない姿、彼にだけは見られなくなかったためか、せめてもの抵抗で顔を背け、唇を噛み締めると襲い来る感覚に抵抗する。
くぐもった声を漏らし、自分も経験したあの感覚に耐えるマヤを見て、リーバルの理性は決壊寸前だった。
自身にも熱が滾り、首に筋を浮かべるマヤの細い顎を掴むようにしてこちらに向かせると、未だ光を宿らせた意思の強い黒い瞳とかち合う。
だが、頬は紅潮し、じんわりと目を潤ませるマヤを見てリーバルの理性は決壊したダムの水のように激しく流された。
「いい顔じゃないか、マヤ。使命と誇りに塗れたその目、その顔、その姿勢を…いつかぶっ壊してやりたかったんだ」
物騒な物言いにマヤは毅然と見据えた。
「…はぁ、あなた、貴方は誰なの…?私の知ってる『リーバル』じゃないわ…」
「僕はずっと僕のままだよ。『英傑』、『リト族一の戦士』なんて称号も、オオワシの弓も僕を形成するただのお飾りみたいなものさ」