第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
彼はずっと、雨だれのようにぽつりぽつりと話していたが、彼の瞳を巣食う怨念の目は異様な程にギラついていた。
少しでも下手な真似しようものなら、その目に射殺されてしまいそうだ。
ただ、どうにかしてここから彼を助けなければ。
研究所に連れていけば、治療して何とかなるかもしれない。
だが、恐らく飛べないであろう彼をどう運ぼうか。考えれば考えるほどわからなくなり、頭がふわふわしてくる。
「…急に大人しくなって、どうしたんだい?」
リーバルは少し首を傾げたが、マヤの頭を撫でる手は止めない。
「…リーバル。ここから、メドーから降りましょう」
回らない頭でしぼりだした言葉に、彼は肯定も否定もせずにただ、「どうして?」と甘えるように言った。
「あれから100年経ったそうじゃないか…だが、僕にとっては数秒も同然さ。ここにいれば幸せな気分でいられるのに」
「でも、あなたが愛したオオワシの弓はどうするの?」
「…あんなガラクタ、もうどうでもいいんだ」
彼は、ふいっと顔を背けた。
その視線の先を見てみると、焦げ跡が残り、弦は切れ、装飾が砕けたオオワシの弓が、無惨な姿で横たわっていた。
そんな…と瞠目するマヤを見やり、リーバルはイタズラを思いついた時の子供のように、にんまりと笑った。
リーバルの様子などつゆ知らず、マヤは彼の腕の中でガックリと肩を落とす。
落胆するマヤの片足をリーバルは気づかれないよう、羽先ですぅーっと撫でた。
「っひゃあ!」
だが、シーカー族の民族衣装は思いのほか薄く、すぐに気づかれてしまったが、マヤの思いがけない声が聞けたことに、リーバルは満足そうにクスクスと笑った。
「リーバル、こんな時に何するの!私が真剣に考えてるのに…それにあなた、さっきから様子がおかし…っ!?」
「…あれ、もうきたのか」
足の力が抜け、倒れ込みそうになるのを必死でこらえ、思わずリーバルの肩を掴む。そんな様子を、ほくそ笑むように口角を上げながら、リーバルは段々と呼吸が荒くなっていった。
マヤもまた、片足に生じた異変に驚きを隠せずにいた。