第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
マヤは少しだけ戸惑ったあと、彼が広げた翼の間に恐る恐る体を寄せた。
そしてリーバルは、マヤの体を包み込むように強く抱きしめる。
予想してなかった強い力に、マヤは少し驚いたが、そんな理性を飛ばすほど甘くしてくれる彼に、すっかり溶かされる。
最後に会った時は、まだ皮肉めいた口調だった。
あまりの変わり様に違和感を覚えたが、覚えただけでそれ以上は考えなかった。
だってここには、生存を望んでいた想い人がいるのだから。
「マヤ…僕は、君がここへ…来てくれたことが、本当に…嬉しいんだ…」
「私もよ、リーバル…!貴方の生存を、ずっと諦めてなかったもの」
「そうか…それは、とっても…光栄だ…ありがとう」
100年前なら絶対に口にしない感謝の言葉を聞けて、マヤは胸が張り裂けそうな気持ちになる。
「いいのよ…今日までずっと、頑張って生きていてくれてありがとう…」
「…あぁ、でもね…僕の頑張りではないよ」
その返答に、マヤは顔を上げて彼の目を見た。
そして思わず「ひっ…」と引きつったような声が漏れる。
さっきまで暗い影を落としていた翡翠色の瞳はそこにはなく、代わりにあの忌まわしく金色に光る目があった。
それはまるで、怨念の目のよう─否、怨念の目そのものだった。
「…あの日僕は…ハイラル城から飛んできた、厄災の煙に巻かれた…熱くて、苦しくて…どうにかなりそうだったよ」
細い瞳孔をもっと細め、ただただこちらを見上げてくるマヤを射抜くように見つめた。
「でもそれは…初めだけで、だんだんと…気持ちよくなっていったんだ…体の内側から力がみなぎるようで…まるで、素晴らしい戦果をあげてきた時のようだったよ…それで、どこからか、声が聞こえたんだ…」
「声…?」
「そう…。その声は僕に、『この快感に身を委ねろ』とね。何も考えれなくなって、あの日から今日まで、あっという間に感じた。ただ…頭が幸せでいっぱいで、体は動かないけど、こんなに…気持ちいいんだから、何も考えることは無いさ」
何も言えずにリーバルの話を聞いていたマヤの頭の回転は、すっかり止まっていた。
するり、とそんな彼女の頭を撫でたリーバルは、天を仰ぐように上を向いた。