第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
ひゅう、と一際冷たく強い風が吹き、肌がキリキリと痛む。
凍りそうになるほどの冷気に、マヤはもっと厚着してくればよかったとひどく後悔した。
メドーの上部は遺跡群のようになっており、苔むした地面からいくつか柱がそびえ立っている。
その真ん中にメイン制御端末があり、他の制御端末を解除した今、マヤは干渉する権限をその手に持っていた。
他の景色に比べたら一際異彩を放つメイン制御端末に、寒さを噛み締めるように1歩1歩距離を近づけていく。
干渉したら、きっと何かが起こるはず。
何が起こるかはわからないが、ここまで来たらやるしかない。
何もしなくてもメドーが暴走する可能性もあるし、干渉したらメドーが抵抗する可能性もある。
結果的にどちらも同じ方向に転ぶなら、やれる事をやって、使命を全うしてからが最適解だ。
小さな古代遺物を握りしめた手を温めようと、口元に手を近づけたその時、ふわっと一瞬だけ何かがマヤの頬を掠めた。
寒さで感覚は鈍っているが、明らかに人口物ではないそれの感触に、思わず足を止めた。
何が頬に当たったのかがわからなかったので、それが飛んできた方向を見て、次また同じことが起きないか目を見張る。
すると、メイン制御端末の方から何が小さく濃い色のものが飛んでくるのが見えた。
恐らくあれが頬を掠めたのだろう。
今度は3つほど一気に飛んできた。
早すぎて目で追うことすら出来ない。
“ 何か”が制御端末から漏れているようだった。
明らかに厄災復活前にここへ来た時には無かったものだ。何度もここへ来たから分かる。
厄災復活前にはなくて、今あるもの──。
心臓が早鐘のように響き、次第に呼吸が荒くなる。
足りない酸素を補うように、小刻みに肩が震えた。
マヤの心を占めているのは、紛れもない恐怖。
しかし、足は止まらなかった。
吸い寄せられるように制御端末に近づくと、さっきまでは感じなかった瘴気に一気に晒される。
怨念の沼が、制御端末の裏側に張り付いているようだった。
ところどころ、正面からその一部が見えている。
触れられる距離にまで近づき、胸のあたりを抑え、深呼吸をすると制御端末の裏側を恐る恐る覗いた。
「...っ!?」
マヤは息を飲み、思わず手で口を覆った。