第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
神獣ヴァ・メドーのワープ地点に立った時、ふと100年前にゼルダと交わした、あの微笑ましいやり取りを思い出した。
何故このタイミングなのかはわからなかったが、多分目の前に広がる、この恐ろしい光景を目の当たりにしたことから、自分の中で幸せだと感じた楽しい出来事を思い出すことによって一時的に恐怖心を拭っているのだろう。
見てるだけで息が苦しくなるような、漂う瘴気。
至る所に点在する、怨念の沼と目。
唸るような不気味な音。
時折聞こえる神獣の慟哭のような叫び。
そして──何故か自分が入ったら張られたメドーのバリア。
まるで、ここから出すものかと言われているように思える。
無事でいたとしても、ここから出られるか心配になってきた。
だが、プルアとあんなやり取りをした後に、戻ったら戻ったでめちゃくちゃに怒られそうな予感がする。
というのは半分冗談で、メドーが姿を現したその日から、マヤはここへ来ると心に決めていたし、命の覚悟はとっくにできている。
任命された時は、嬉しい半面不安な気持ちもあったが、今思えばこの役目を命じてくれたことに感謝している。
王家に仕える研究者でありながら、あのガタガタと走るガーディアンがどうも苦手で、大地からそびえ立つシーカータワーも研究としての相性が悪いように感じた。
自分の役目でありながらも、上手くこなせない自分が嫌で嫌で仕方がなかったのを、ゼルダはきっとわかっていたのだろう。
ゼルダ自身が、自分の役目を全うすることができないという悔しさを知っているからこそ、同じ境遇のマヤを放っておけなかった。
神獣管理のおかげもあり、マヤは英傑の1人──リーバルと接触することができた。
もともと異種族との交流がなかったからか、猛禽類のような見た目の彼だからか、彼の持ってる性格からかは定かではないが、初めこそ気まずい雰囲気が流れていた。
しかし否が応でも接触の機会が増えるにつれ、よく話す仲になり、次第に惹かれ合っていった。
その気持ちをお互いに確認することはないまま、厄災復活と同時に、悲しくも引き裂かれてしまった。
「私ったら、また余計なこと思い出しちゃった」
ぺちん、と頬を両手で打ち深呼吸をすると、手始めに入口に巣食っている怨念の目を小刀で突き刺した。