第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
───100年前。
にっこりと笑うゼルダ姫から神獣管理を任命された時、思わず「え?」と声が出た。
「これは、貴女が持っていてください。神獣管理を任せます、マヤ」
彼女の手には、シーカーストーンを小さくしたような古代遺物が握られており、マヤの手を優しく取ると、それを乗せた。
ガゼボで休憩している最中、突然ゼルダに呼び出され、ここへ連れられてから一瞬の出来事に、マヤは目をぱちくりさせる。
「姫様、これは一体…?」
「シーカーストーンほど色々なことが出来る遺物ではありませんが、神獣へのワープと制御や管理ができます。プルアやロベリーたちは、ガーディアンやシーカータワーの管理を任せてますし、私は…封印を力を目覚めさせなければなりませんから...」
ゼルダは少しだけ悲しげに目を伏せた。
大方、国王陛下からそのように言われたのだろう。
厄災復活の日は刻一刻と迫る中、封印の力を受け継いでいるのはゼルダしかいないのだ。
いくら古代遺物を率いたとしても、厄災はどんな形で復活し、どのような手を打ってくるかは計り知れないのだから。
そんなゼルダの胸中を察し、思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、自分は所詮王家に使える研究者。
そんなことが許されるはずがない。
その代わり、渡された小さな遺物とその上に置かれた彼女の白い手を包んだ。
ゼルダの澄んだ瞳を見つめ、マヤはすっと膝をつく。
「このお役目、謹んでマヤがお受けいたします」
そう言ったマヤの様子に、ついゼルダは失笑してしまった。
彼女の鈴を転がしたような笑い声に、マヤは顔を上げる。
その表情は、悪戯をした後の子供のようだった。
「ふふ、ごめんなさい。やっぱりマヤは、面白いですね。」
「姫様、それ褒めてますよね?」
「もちろんですよ、マヤ。ここでは2人きりですし、いつも皆にそうしてるみたいに、もっとこう...フレンドリーにしてくれると、私もその...嬉しいのですが...」
その言葉を最後まで言わせるものかと、慈しむように彼女を抱きしめた。
そんなやり取りをし、城内の廊下で笑いあったことが、ゼルダとマヤがしっかりとお互いの顔を見て言葉を交わしたのが最後だなんて、この時は思ってもいなかった。