第3章 はるか上空での欲望と理性の戦い
その目はわずかに潤んでいた。
「…私はこれ以上、誰かを失ったりしたくないの。分かるでしょ?またここから生きていかなきゃいけないんだから、貴女までいなくなったら…」
そこで彼女は言葉を詰まらせ、視線を少しだけさまよわせると「怒るからね」と呟くように言った。
マヤは精一杯の笑顔を作ると、プルアの顔を覗き込み優しく微笑んだ。
そして、未練を経つように勢いよく立ち上がると、研究所のドアを開けた。
外の光が昼間でも薄暗い研究所の中を照らし、2人は眩しそうに目を細めた。
まるで後光が刺すようなマヤを見たプルアは、思わず彼女の名を呼ぶ。
「マヤ!」
「プルア!貴女と私は、強く賢く美しいシーカー族!そして、ハイラル王家に使えた誇り高き、諦めの悪い研究者よ!厄災を生き延びた私たちに、乗り越えられない壁はない!」
眩しい言葉に、プルアはただ聞いていることしか出来なかった。
「いい人生だったわ!貴女のことは忘れない、ありがとう。さよなら、プルア!」
踵を返して光へと走るマヤを、プルアは追いかけたが、既にマヤは飛行用の布を広げ、谷を滑空して行くのが見えた。
彼女はぺたんと芝生の上に座り込むと、まるで子供のように声の限りマヤの名を叫び、緑の台地を濡らした。
きっと友の姿は、この先見ることは無いだろう。
どうか一抹の希望にかけ、マヤと英傑たちの無事を祈り、プルアは100年振りに天に向かって手を合わせた。