第32章 旦那の○○
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巌勝「無一郎と有一郎の事が無くともまゆは私との子供が欲しいのだろう?」
まゆ「……………」
常日ごろから言ってるから其処らへんは分かってくれている。答えようが無いのが現状よね
縁壱「どうなんだ?妙神山でも言っておったではないか」
まゆ「うん、本音は欲しいわよ?でも今はね…」
巌勝「思い立ったが吉日。今夜にでも煉獄家にお邪魔しようか。お館様、影子に文を持たせます故、墨と紙をお借りできませんでしょうか」
耀哉「勿論良いよ。今持って来てもらうね」
巌勝さんが綺麗な字で文を書いていく。私とは正反対だわ(汗)字が汚すぎて鉛筆で書いても事務方から苦言を言われる位だもの
まゆ「何でそんな字が綺麗なの?羨ましいよぉ」
一ノ瀬「諦めろ。お前は永遠に字が汚いのが確定だ。千年前、和歌を短冊に書いた文字の破壊力は忘れられん」
アレでも頑張って書いた方なんだけどな…
まゆ「花見か何かの時よね。すごーく丁寧に書いたわよ?北の方として夫に恥をかかせるわけにはいかないからさ」
一ノ瀬「私の中で『丁寧』の観念が崩壊したのだが如何してくれる」
まゆ「そりゃ大変ね。ごしゅーしょーさまっ」
千年前の花見を思い出して『自分頑張ったなぁ』なんて思う。振る舞いも貴族の北の方らしくしてたしぃ
巌勝「北の方とは妻の事な筈だが何故にまゆが一ノ瀬殿の北の方だったのだ?まゆにとって私達が初恋で最初で最後ではなかったのか!?」
まゆ「えっ、言ってなかったっけ?」
巌勝さんの綺麗な顔が歪む。眉間にシワ、顔中に青筋、ギリギリと軋む歯。嫉妬と殺気が全身から感じられたのだった
巌勝「聞いておらぬぞ!」
縁壱「兄上、落ち着いてください。ただの偽装結婚ですから」
一ノ瀬「そんなに心配せずとも利害が一致したに過ぎませぬ」
まゆ「そうよ、愛とか恋とか何もないから安心して!」
巌勝さんは「まゆ、俺が納得出来るような説明をしてくれるな?」と、私を眼光鋭く見据えた。巌勝さんが『俺』と言う時って極限状態的な感じよね…
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