第3章 運命の歯車
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縁壱「(参ったな…うたを亡くしてからまだ二年しか…)」
縁壱はこの感情の名前を知っている。うたと出会う前、まゆに接吻をした時にはもう有った感情なのだから
まゆはコテンと首を傾げ「縁壱お兄様どうかしたのですか?」と聞いた
縁壱「あ、いや何でもない…もう本部に着くぞ」
これから師としてまゆを育てなければならない身、これだけ愛らしい彼女は隊士の男達からの誘いもあるだろう
まゆ「ご飯楽しみ!おにぎりを十個くらい持たせてもらって歩きながら食べてたんですよ。気が付いたら、出発してから二刻(約4時間)位で全部食べちゃってまして…」
縁壱「途中で気が付かなかったのか?(おにぎりか…あの頃よく持ってきてくれたな…)」
ー約十三年前ー
戦国時代の末期、良い家柄であれば一日三食が既に普通の時代。しかし縁壱は忌み子として育てられていた為に、朝と晩しか食事は与えられておらず、食事も少なく粗末なものであった。縁壱は常に腹を空かせている状態だったのだ
『よりいちおにいさま!おなかすいてませんか?』
『……』
『じゃぁーん!よねさんにたのんだら、つくってくれました!たべてください!』
まゆが包みを開けると三角の形が良い握り飯が四つ、そして丸くて小さい握り飯が一つ有った。縁壱は丸くて小さい握り飯をジーっと見ている
『あっ、これは わたしがつくりました…』
『ありがとう』
この時、縁壱が初めて人前で言葉を話した瞬間だった。この後、自分が話せる事と耳が聴こえている事は口止めしている
『おいしいかったですか?(ドキドキ)』
『まゆのが一番美味かった(何故こんなに可愛いのだろうか…)』
縁壱は、そんな幼少期を思い出していた
自分が嫉妬してしまうのは目に見えている。縁壱は戦いに於いては無我の境地にあるが、まゆに関する事は昔から良くも悪くも、激しく感情が乱されている気がしてならない
先程まゆが自分の首に抱き着いてきた時『一体誰が教えたのだ』と、姿も名も知らぬ男に黒い感情が湧いたのだ。その男が双子の兄、巌勝だとは知らずに
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