第12章 縁壱の娘と素敵な伯父様
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美月が両親への挨拶を済ませて部屋を出ると、まゆは縁壱の顔を覗き込み話しかける
まゆ「ねぇ縁壱さん、一体どうしたのよ(泣いてる…?)」
縁壱「……すまない…美月が出来てからの事を思い出しておった…」
十六年前、まゆの腹に子供が出来たと知らせを受けた日の事。最悪な状況の中で無事に産まれてきてくれた日の事。初めて「とーしゃ(お父さん)」と言ってくれた日の事。思春期なのか、あまり口を効いてくれなくなった事もあった
美月との色々な思い出が縁壱の頭の中を駆け巡っていたのだ。ギリギリまで動かないのは、手塩にかけて育てた娘を嫁に出す父親の、最大の抵抗なのだろう
まゆ「うん、あっという間だったね…」
縁壱「あぁ…」
縁壱は返事をしつつ立ち上がった。その顔には涙の跡、気持ちを切り替え支度を始める
愛する女との一粒種、大切に育ててきた
妻に似て元気過ぎて煩くて、気が強くて何でも全力で
幼い頃から男子のように走り回り、怪我が絶えなかった
そんな娘が今日、嫁に行く…
大切な一人娘の祝言が終わり、屋敷に帰って来た二人は早々に着替えて居間で酒を飲んでいた
まゆ「良い祝言だったわね。美月さ、すっごく綺麗だった♪あの男勝りな美月が随分しおらしくなっちゃって、ホントに驚いたわ(笑)」
縁壱「そうだな…」
縁壱は元々口数が少ないが、今日は本当に喋らなかった。祝言の最中ですら挨拶もソコソコに酒を飲み始め、美月をジッと見つめて泣いていたのだった
新郎の父である透寿郎は「普通の父だった!?いつもより無口になってしまった…」と鬼殺隊時代から知っているが故に意外だと驚いたらしい。それ位喋らなかったのだ
緑野に至っては『手酌じゃ寂しかろう』と、わんこ蕎麦様式で縁壱に酒を注いでいた。緑野にも娘を嫁に出した経験があり、縁壱の気持ちが分かったらしい…
まゆ「いつまでしょげてんのよ!」
まゆは縁壱の膝に乗って腕を首に絡ませると縁壱も抱き返し、無言でまゆ髪に顔を埋めている
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