第9章 手が届く
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私がまゆの乳を手で軽く圧迫すると少しは乳が出るらしく、美月の唇には母乳が付いている。飲めているかはわからないが、そのうちに美月は寝てしまった
縁壱「完全に寝たな…」
まゆ「母上がね、最初は上手く飲ませられないし上手く飲めないって言ってたの。初産なら尚更て、初乳もそんなに出ないってさ…こんなもんなのかな…」
まゆは籠に寝かされた美月を眺めながらポツリと呟いた。現時点で私自身がしてやれる事など、数える程しかないのが歯痒くて仕方がない
縁壱「悩んでも仕方あるまい、明日母義上に鴉を飛ばして聞いてみよう。七人も立派に育てたんだ、知恵をお借りするには適任であろう」
まゆ「うん♪」
【縁壱独白SIDE】
鷹男から連絡を受けた時、頭の中が真っ白に染まった
屋敷の方角に鬼の気配を感じた時、アノ日の情景が頭を過り脚が震えた
震える脚で更に速度を上げた時、鬼と闘う誰かの気配を薄く感じて少しほっとした
あと少しで屋敷に辿り着く時、鬼と闘う者が身重の妻だと気が付いた
またアノ日の情景が浮かんだ時、絶望した
私が屋敷に着いた時、妻は鬼を斬り伏せた
一瞬何が起きたのかわからず頭の中が混乱している時、思わず妻を抱き締めていた
母子共に無事で居てくれたのを理解した時、妻を布団に運んだ
妻の指示に混乱している時、新しい生命が産まれた
うたの時と同様に間に合わなかった
妻が自ら日輪刀を振るい、腹の子と自分を守りきったのだ
私は何と無力なことか…
怖くて、怖くて仕方がなかった
うたと子も守れず無惨も討てなかったどころか、兄上が人喰い鬼になってしまった
全ては私の責任だ…
私は何も守れてないではないか…
【独白END】
気が付けば頬を伝う涙、まゆの顔がぼやけて見えない
縁壱「まゆ…ありがとう、もうだめかと思った…」
まゆ「縁壱さん泣いてる…どうしたの?」
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