第9章 手が届く
・
鷹男「カァー!縁壱ィィィ」
影子「クッソ大事ナ伝令ヨー!!」
縁壱は鷹男と影子の声を聞いて何事かと薪を割る手を止めた。この二匹が、こんなに慌てているのは珍しく『無惨か上弦の情報か』と、縁壱が手に汗を握っている
縁壱「どうかしたのか?」
鷹男「幸セヲニナリタケレバ今スグ本部ニ行ケーーー!!」
縁壱には何の事かがサッパリ分からず困惑気味だ
影子「まゆノ、オ腹ニ出来タ赤チャンニ祝福ヲー!!独リデ産ムトカ言ッテルカラ早ク行キナサイヨォォォ」
縁壱「まゆの腹に私の子が…独りで産むとは?まゆは本部に居るんだな?(今度こそ愛する人が手の届く場所に居る幸せを…)」
縁壱は駆け出し、全速力で走る。縁壱に鎹鴉二匹は追いつけないが、縁壱なら大丈夫だろうと見送った
鷹男「世話ガ焼ケルな…」
影子「全クダワー」
縁壱にとって約三年ぶりの本部。もう知っている者も限られていたが緊張が走る。その辺に居た隊士に話しかけまゆの居場所を聞いた
縁壱「そこの隊士の方。つかぬ事を伺いますが、光柱殿はどちらへ?」
隊士「まゆ様なら医務室に行かれたと聞いたが、貴方は確か…」
縁壱は隊士の話を最後まで聞かずに礼を言い、走って医務室に向う。何故自分が今この場に居るのか聞かれても答えようがないのだから仕方がないだろう
まゆ「眠い…」
まゆは前回より悪阻が酷く異様に眠たいと訴え、浦太郎によって医務室に寝かされている。気配に敏感な浦太郎は、こちらに走ってくる見知った気配に気が付いて医務室から出ようとまゆに声を掛ける
浦太郎「まゆちゃん、僕は隣の部屋で薬の調合してくるから寝ちゃいなね(もうお出ましか、僕の出番は完全にないね…まゆちゃん、幸せになってね…)」
浦太郎が『引き際が肝心』と自分に言い聞かせて部屋を出ると、直ぐに縁壱が到着した。少々乱暴に開かれた扉にまゆはボーッとする中、何事かと顔を向ける
まゆ「えっ…縁壱さん!?」
縁壱は医務室の寝台から飛び起きるまゆを強く抱き締める。その姿はまゆですら見た事のない程に余裕が無い様子で、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった
・