第1章 ジェイド【ツイステ】
ドサ
一拍遅れて、今度は地面と何かがぶつかるような……これも聞き知った音。視界の端で、何かが動いたのでそちらに視線をやると、先ほどまで僕を見て驚きの表情を浮かべていた彼女が、女性らしい華奢な足を、地面へと下ろすところだった。
「っ」
今度は僕が、驚きに目を丸くする側だった。
「話の邪魔……しないで欲しいな」
「な、んだと?!」
彼女の足元で、頬を押さえて転がっている男は、何が起きたかわからずと言った様子で声を上げた。彼女が蹴り飛ばしたのだ。ハイヒールで。頬のあたりが一部赤くなって擦れているのか、血の匂いがする。
「私ね、今ジェイドくんと目が合ったのよ。ジェイドくんは私を避けているみたいだから、こんなところで会えると思わなくて。それなのにキミたちは、私の邪魔をするから……」
「はあ? 元はと言えば、俺らが遊んでやろうって話だろうがよ! テメェ、可愛いからって調子乗りやがって! 女だからって容赦しねぇぞ!」
「え、かわいい? ありがとう」
「クッソ!」
散々不穏なセリフを言われているにも関わらず、的外れな単語だけを拾って小首を傾げる彼女は、確かに愛らしいかもしれない。が、それどころではない。転がっていた男とは別の、喚き散らしていた男が昂った感情のままに彼女に手を挙げた。今度こそ割り込もうとした。はずだった。
「だから、さ」
ダダンッ
「うぐっ」
「邪魔しないで」
耳馴染みの良い鈍い音は、飛び蹴りの音である。小柄な彼女が、自らよりもかなり身長の高い男の顔面へ、飛び回し蹴りをお見舞いしたのである。人は見かけによらない。
さて、そろそろ僕も会話に混じりたい。
「女性相手にこのザマとは、無様ですね。もっとも、まだやるというなら今度は僕がお相手いたしますが」
さっと、彼女の前をとり、ほんの少しだけ背後に気を遣りながら自分よりも幾らか背の低い学生たちを見下げる。
「お、おい、いくぞ」
「チッ、覚えてろよ」
「次はねえからな!」
間抜けな捨て台詞とともに、彼女を囲っていた男たちは走り去っていった。