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短編集

第1章 ジェイド【ツイステ】


「あやめさん」
「……?」
「おや、如何されましたか」
「私の名前、知っていたの?」
「ええ、もちろん」
「ジェイドくん、いっつも私のこと避けているから、興味ないか、よっぽど嫌われているんだと思ってた」
「まさか。興味なら尽きません。必要以上に関わらないだけで。それよりもあやめさん」
「なあに?」
「スカート、直された方が良いかと」
「え、あ、ああ、ほんとだ」

 飛び蹴りの反動か、彼女の膝下までを隠していたフレアスカートは、膝上まで上がってしまっていた。すらりと細く白い肌が、黒いスカートとの対比でより艶やかに見える。
 パン、と一払いするだけでスカートは元の長さへと戻り、先ほどまで惜しげも無く晒されていた太ももが隠されてしまう。ほんの少し残念に思いながら、彼女に一歩近づく。

「そういえば、お礼言っていなかったね」
「何のお礼でしょう」
「ふふ、さっき、私が囲まれているの見て、向こうから来てくれたんでしょう」
「おや、気がついていらっしゃいましたか」
「うん。ちょっと嬉しかった」
「ですが、結局僕は何もしていませんよ。まさかあやめさんが武芸の心得をお持ちとは。僕が入る隙はありませんでしたね」
「意外だった?」
「ええ。もっと……そう、儚く脆い女性かと」
「ふふ、そう」

 近づいたと思った距離を、一歩退いた彼女が遠ざける。

「悪かったわね、期待を裏切ってしまって」

 ヒヤリとした声と瞳で、見上げられた。うっすらと笑みを浮かべる唇は真紅で、目尻に引かれたアイラインが、ただでさえ目を惹く漆黒をより一層際立てていた。
 ぞくりと、肌が泡立つのを感じる。この感覚は、初めてだった。陸の女性に対して、このように感じることがあるとは。

「じゃあ、私は行くわね。またね、ジェイドくん」

 まるで、先程の一言はなかったかのように、元のふわりとした笑みに戻った彼女は、ひらりと一つ手を振った。
 反射だった。その手を取ったのは。

「……ジェイドくん?」
「……」
「おーい……?」
「……失礼しました」
「いや、良いけど。何か……?」

 これが、自棄を起こすということだろうか。

「よろしければ、僕とお茶でも如何です?」

 距離を置くと決めていた女性に、自ら手を伸ばしてしまった。
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