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短編集

第1章 ジェイド【ツイステ】


「なっ」
「お、おい、あいつリーチ兄弟の……」
「いや、でもあいつはジェイドの方だろ、やばいのはフロイドの方だって……」
「な、なんだそれなら……」

 ひそひそ、と話しているつもりだろうがこちらまで聴こえている。やばいのはフロイドの方……なるほど。

「話し合いは終わりましたか」
「ふん、わざわざ声かけてくるなんて、王子様気取りか何かか?」
「あいにくと、このひと俺たちで予約埋まってるからよぉ、帰ってくんねーかな」

 僕が「フロイドではない方」だとわかってから、目の前の集団の態度はお粗末なものになった。その間一切言葉を発することなく、ずっと視線を下に移していた彼女。目の前の集団に怖がるでも、僕が現れたことに驚くでもなく、ただ、淡々と。

「予約、ですか」

 思っていたよりも、ねっとりとした声が出た。ああ、久しぶりに、僕も本気で体を動かしたくなった。フロイドではない方、などと言われては、期待に応えたくなるものだ。
 僕が口の端を持ち上げて一歩踏み出すのとほぼ同時に、ハッとしたように彼女の顔が上がり、その視線は一直線にこちらを射抜いた。
 漆黒の瞳。天井の照明を集めてキラキラと濡れて光るようなその瞳は、僕の方を向き、ゆっくりと一度瞬いた。次に開いた瞳は、驚きに満ちていた。あれほどまでに淡々としていたそのひとが、今初めて僕に気がつき、そして驚きにその目を見開いていた。
 これは……。

「ジェイドくん……」

 彼女の口が、そう動いた。

「そうそう、予約。だーからー、もうこの人俺らが、」

 横槍を入れてきた無粋な声に、やれやれと首をすくめて視線をやったら、不自然に声が途切れた。
 ダン、と鈍い音がした。それは例えるなら、そう、気にくわない相手を蹴り倒した時のような、耳に馴染みのある音。
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