第4章 声
翌朝。
いつも通り6時に起きてふと鏡を見れば、何も写し出されていない普通の姿見がある。
昨夜の事なんか嘘みたいにすっかり元通りの鏡に、夢だったんじゃ…って思ってしまう。
だけど…まだ耳に残っているあの人の声。
いい声だったなぁ…。
しかもなんか向こうも何かを感じてたっぽいし…。
服の牡丹に手を掛けてギュッと握りしめて頭を振る。
「…いやいや、有り得ないでしょ…」
鏡だよ!?確かに映し出されたり声が聞こえたり不思議な事起きてるけど…
視線とか感じるはずないし…あの人もただ勘違いしただけ。
てか…生きてる人なの…?
もし幽霊とか…だったら…
想像しただけで体が身震いし顔が青ざめる。
…違うよね?うん。
無理矢理自分に言い聞かせて、急いで服を身にまとい右手首に時計を付け鞄を手に取る。
「よし!切り替えて今日も頑張るぞー!!」
力強く頷いて部屋を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈…
いつも通り業務を終えて家に帰り、服を脱ぎ捨てラフな部屋着のワンピースへと着替える。
今日も疲れたなぁ…。
どかっとソファーに座り込み息を吐き出す。
…今夜もまた見えるのだろうか。
やっぱりふと頭を過ぎるのは、昨夜の鏡の中の風景と声。
気にしないようにしていても…あれだけはっきりと声を聞いてしまっては気にならないなんていうのは出来る筈もない。
また声を掛けてきたらどうしよう…
そんな事を考えていると目の前がぼやけてきて瞼が自然と重くなり…
知らないうちに目を閉じて眠りへと引き込まれていった。