第4章 声
まるで鏡の中に誰かいると確信しているかのような問いかけにドキドキとして目が離せない。
見えてる…とかじゃなくて何かに感じてる?
もし、ここで声を出したら…?
ゴクンと唾を飲み込み私は勇気を出して声を出してみる。
「…あの…、聞こえますか…?」
心臓の音が煩く響き渡る中、必死に言葉を繋いで彼に問いかけると表情を変えることは無くジッと見つめてくるだけ。
やっぱり…聞こえてはいない?
様子を伺っていれば、彼は暫し見つめた後スっと鏡から手が離された。
そのまま何か言いたげにしていたが振り払うように彼は鏡に背を向けソファーへと歩いていく。
私の声は向こうには聞こえていないんだ。
ホッとする反面、何処か寂しさが残る。
鏡を見ると彼はソファーに腰掛けて書類に目を通していた。
初めて聞いた…彼の声。
低く…でも落ち着く声色。
びっくりしたけど、また聴いてみたいかも…。
暫くするとフッと鏡に写っていた景色が消えて普段見る姿見に戻った。
時計を見ると四時を指していて…。
やっぱり朝方になると消えるんだ。
ふわぁ…眠い…。
気が抜けたせいか眠気が襲ってきてベッドに横になる。
瞼を閉じれば一気に夢の中へと落ちていった。