第1章 始まりは突然に
「千栞ー?!早く起きないと遅刻よ?!」
アラームの音と同時に千栞は夢から引きずり出された。
(あともうちょっとで名前を聞けそうだったのに…)
少しもやもやを残しつつも制服を着る。
『どうせボサボサになっちゃうなら早く学校に行って夏帆に髪を結んでもらおうかな…』
どうせボサボサになるのだ。
後で結ぼうが今結ぼうがさほど差は無い。
それに何回も髪を結ぶより1回に搾った方が髪への負担も少ないだろう。
「あら、今日は髪を下ろすの?」
『うん、学校行く途中にボロボロになっちゃうからさ』
千栞は仏壇に『行ってきます』と言ってから家を出た。
『うーん…』
千栞は今日見た夢が気になっていた
夢の割にはリアルすぎる気がする
(もしやこれは
アニメや漫画でよくある前触れ?!)
それはただの勘でしかないし、確証は無いが。
『私ヒロインになっちゃった!!』
わーいわいと通学路で踊る千栞
周囲の冷たい目にはまだ気づいていない
「千栞…何してるんや…」
若干引き気味の夏帆に通学路で会う
『不思議な夢を見たの』
「夢ぇ?どんな?」
『私が和風の家で男の人に膝枕してもらってた
その人の声がほんわかしててキャラメルをくれたの』
夢は起きた時には50%忘れていると言われているが
千栞はその夢を1分1秒1文1句はっきり覚えていた。
「 ほへぇ〜、不思議な夢ねぇ…
あ、あかんもう予鈴鳴ってまう」
時計を見ると時刻は8時10分を指している
『えっ、走ろ!!』
と言って1人だけ爆走し始める千栞
「千栞のスピードに一般人が追い付けるかいな…」
千栞は夏帆が言った通り一般人には追いつけそうにない。
千栞は世界規模にも出れるような足の速さだが、
オファーを受けても大会に出ること自体千栞が嫌がっている。
理由を本人に聞くと
『寝る時間無くなっちゃうからさ』
とのこと。
千栞は睡眠に異様な執着心を持っていて、林間学校というみんなでキャッキャする行事でも学年の誰よりも早く寝た記録を持つ。
「ほな、自分のスペースで行こかぁ」
ボソボソ呟きながら夏帆は自分のスピードで走り始めた。