第1章 始まりは突然に
『やっと終わった…』
地獄の時間から開放された千栞は夏帆と同じ道を通って家路に着く。
家に着くと母が台所で野菜を切っていた。
「あらおかえり」
母にただいまと返事をするとソファーに父が座っていた。
「おかえり、千栞。
手を洗っておばあちゃんに挨拶しておいで。」
父はなんだかほんわかしていて
夏帆と雰囲気が似ている。
父は眼鏡をかけていて少し体格はいいが、母を相手にすると何も喋れなくなる。
母からの威圧感もあるだろうが、何より父は愛する母に口答えができないのだ。
もう少し自分の意思を伝えられたら会社の人から「きゃー!かっこいいー!」とも言われただろうに。
少し残念な人だ。
そんな父も昔はイケメンだったらしい。母がよく
「昔はすんごくイケメンでね」と話してくれる。
父は恥ずかしそうに聞いているがまんざらでもない顔をする。
「おばあちゃんに挨拶してきたかい?」
『うん。やってきたよ』
その後は疲れで袴を着たままベットで寝てしまった。
その日の夢はとても不思議な夢だった。
…ひろ、千栞_
もう起きなければいけないよ_____
その夢の中で私は誰かに膝枕をされており、うたた寝しているようだった。
声の主と思われる人が千栞の頭を優しく撫でてくれる。
その手は暖かく、ほのかに藤の花の匂いがした
千栞は夢の中で目を開ける。
そこにはとても綺麗な日本庭園が広がっており、
見事な枯山水が描かれてあった。
『綺麗…』
生まれも育ちも日本の千栞だが、これ程までの綺麗な枯山水は見たことがなかった。
「千栞、こっちへおいで。お菓子をあげよう」
そう言うとその人は四角いものを私の手に乗せた。
「これはキャラメルというお菓子だよ
父上や母上には内緒だ」
そう言って男の人は口元に指を当て、「しー」と言った。
(顔が見えない…)
男の人の顔は見えず、声と体のみだった。
ホラーの意味では無く、ただ首から上が霞んで見えなかった。
『貴方は誰?』
そう言うと彼は優しくほのかに笑って
「私の名前は_____」
ピ、ピピ、ピピピ____