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数奇なえにし【NARUTO】

第1章 出会いのお話


脳裏に光景が次々とよぎる。暗くて重い思念に吐き気がこみ上げる。
苦悩と挫折に満ちた生。周囲の悪意、秘めた決意、親殺し、弟への情、死への覚悟。
強すぎる想いが波のように襲ってくる。


「……っ」


一通りの記憶を覗き見て、僕は深く溜息をついた。
全力疾走した後のように脳も身体も疲弊している。


彼はどうやら別世界の人間のようだ。
世界の成り立ちも理もまったく違う。
だが、彼の生き方は理解できた。できたからこそ、僕は彼に手を伸ばした。
哀れみを抱いたのだ。この僕が、他人に。


「あなたの生き方は、ただの自己満足だな」


僕が弟の立場だったら、この男を生き返らせた上でもう一度自分の手で殺す。
どんな真実であろうと、騙されたことに変わりはない。
彼の弟がどうするかはさておき、僕個人としてはこの男に嫌悪を抱いていた。


あまりにも自分勝手。
この気持ちが同族嫌悪であることは間違いないが、癪なので気付かないふりをした。


「それにまだ、大切なことを自分の口で伝えていないでしょうに」


後頭部に手を添え、躊躇いなく口付ける。
疲れた人の匂いと、甘い血の味が口の中に広がった。


――別に情が湧いたわけではない。
抑圧された生を終えたこの男の「続き」を見届けてみたくなっただけだ。


「起きなさい」


生気を分け与え、彼の操る言語――日本語で話しかけると、かすかに瞼が震えた。
アジア圏には滅多に用がなく、日本語は不慣れだ。
上手く喋れない代わりに、乱雑に肩を揺する。
蹴り飛ばしてやろうかなどと考えていると、髪と同じ烏の濡れ羽色の瞳がゆっくりと開かれた。


「さあ、選べ」


生きたいか、死にたいか。
突如差し伸べられた手に、彼は酷く無防備な顔で僕を見上げていた。
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