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数奇なえにし【NARUTO】

第1章 出会いのお話


イタチは目覚めた後も、しばらく呆然としていた。
――なぜ、自分は生きているのか。
その問いに答えられる者はいない。
ただ、生きているという純然たる事実だけがここにある。


「あの男は一体……」


あれは夢だったのか。
自分を助け起こしたあの青年は、どんな顔でどんな声だったのも思い出せない。
冷たい手と、唇に感じた柔らかい感触だけはおぼろげに覚えている。

視力も回復している。息苦しさもない。
血液は正常に流れ、心臓は規則正しく脈打っていた。
にわかに信じられないほど健康そのものだった。

サスケの手にかかり死ぬ。すべては誇り高きうちは一族だったと思いこませるために。
それだけが望みで、生きる希望だった。
しかし、もうそんなことを言っていられる場合ではなくなった。

サスケは真実を知った。
戦争が始まった。
もはやイタチのささやかな願いは叶わない。

それならば、やることは一つ。
幼い頃から抱いていた本当の願い――平和のためにイタチは動き始めた。

諸々を経てカブトを止めるためにサスケと共闘し、穢土転生を解いた。
そこでサスケに己の想いを伝えることはできた、と思う。

サスケと別れ、息つく間もなく次はマダラを食い止めるために前線へと赴いた。
奇妙なことに、どれだけ瞳術を使おうと視力が落ちることはなかった。
狐につままれているような気分だが、悠長に考えていられるほどマダラの猛攻は甘くなかった。

――しかし、一番恐れていたことが起こった。
無限月読。誰であろうと逃れられない。
咄嗟にイタチは須佐能乎で防御しようとしたが――。


「いい機会だ。試してやる」


脳内に若い男の声が響いた。
ほくそ笑んでいる顔が浮かぶ、悪意に満ちた軽やかな声音。
縛られたように全身の動きが制御され、瞳術の発動がままならない。


「くっ……」


否応なく月光を直視することになり、意識は闇に閉ざされた。
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