第1章 出会いのお話
――ふと目を開けると、精神世界に立っていた。
どうやら居眠りをしてしまったらしい。
ここは誰もいない。生き物の気配もない。静かで落ち着く場所だ。
寝直すか、それとも散歩をするか。
しばらく逡巡したが、胸騒ぎのようなものを感じて歩き出した。
あまりいい予感ではない。しかし、危険な感じもしない。
幻術士は第六感が発達しており、しばしば勘が当たる。
この先になにかがいる。それは確信だった。
歩き続けていると、映画のカットが切り替わるように世界が変化する。
精神世界は人によって全く違う世界が形成される。
精神世界を散歩するというのは、つまり他人の心の中を覗くということだ。
満ち足りた人の精神世界は反吐が出るほど美しく、人を恨んでいるような人間の世界はどす黒くて空気がべっとりと肌に張り付く。
精神世界には、その人の性根がそのまま反映される。偽ることはできない。
やがて奇妙な世界に迷いこんだ。
そこは干からびた荒地だというのに、なんだか温かくてしょっぱい空気だ。
僕にとっては、少し息苦しかった。近付いてはいけない香りがした。
「こんなところで人に出会うとはね……」
乾いた大地を踏みしめ、うつぶせに倒れている青年に目を留めた。
通常なら虫一匹の気配すらない空虚な空間だが、ごくごく稀に人間と遭遇する。
それは僕のように特殊な力を持つ人間だったり、あるいは波長が似ていたり。
どうやら彼は後者のようだった。
波長の合う人間なんて世界に一人か二人だ。出会える確率なんて奇跡にも等しい。