第1章 出会いのお話
施設を出た夜、生き残りの子供二人を連れて僕と弟は街へ出た。
犬と千種――二人ともいい子だった。僕と弟を救世主のように崇めて敬った。
まずは腹を満たすために盗みを働いた。
誰かがお金をくれるわけじゃない。それなら、奪うしかない。
自分の行為を正当化するつもりはないが、改めるつもりもない。
生きるために、盗みも殺しも必要だった。
「僕はここから別の道を行きます」
三人に背を向けて、僕は歩き出す。
自由を得るためには、まだ障害が残っていた。
「一人で行くんですか?」
弟はしっかりと僕を見据えている。
頼りなげに震えていた弟は、もうどこにもいなかった。
「ええ、一人で」
十歳足らずの少年でも、幻術を使えば思うままに生きることができる。
お互いにそれほど心配はいらなかった。
自分から沼に足を突っ込まなければ、不自由なく暮らせる。
しかし、そのためにはエストラーネオの名前が邪魔だった。
「それではお元気で」
弟の声は淡々としていたが、赤と青の双眸は寂しげだった。
僕は言葉を返さなかった。言いたいことがたくさんありすぎた。
もうマフィアなんてものに関わらず、幸せに生きなさい。
汚いものは見なくていいから、日の光を浴びて歩いていきなさい。
それは祈りでもあった。僕達がそんな風に生きられるわけがないと確信していた。
皮肉にも僕達を救ったこの眼は、闇ほど遠くまで見通せた。