第1章 出会いのお話
那霧が子供の頃の話。
とはいっても、特段の思い出はない。
一日中部屋の中にいて、食べて寝るだけ。そんな代わり映えのない日々。
僕達は家畜のように飼われていた。
読み書きができないから絵本さえも読めない。
獣のような僕達は、今が何年何月何日だとか、そんなもの興味もなかったし知る必要もなかった。
――僕が産まれたのは、衰退の一途を辿っていた弱小ファミリーだ。
子供達はみな、地下の薄暗くてかび臭い一室に閉じこめられて、太陽を知らずに育った。
大人達は常にピリピリしていて、日常的に暴力を振るわれ罵倒された。
食事は硬いパンと濁った水。毛布さえも与えられず、冷たい床の上で丸まって寝た。
気がついたら、誰かが冷たくなって転がっている。そんな環境だった。
僕も弟も大人しくて無口だった。
痩せた身体を寄せ合って、じっと黙りこんでいた。
死というものはいまいち理解できなかったが、もう動かなくなるのは酷く寂しいことのように思えた。
僕がしぶとく生き残っていたのは、弟がいたおかげだろうか。
メスで腹を裂かれても、毒薬に近いそれを何度注射されても苦痛に耐え続けた。
この子を置いては死ねない、死にたくなかった。
そして、同じ日に同じ手術を受けて、僕と弟は血だまりのような赤い眼を移植された。
蘇る前世の膨大な記憶、眠っていた力。
それらを取り戻した僕達は、手始めに施設にいた大人を皆殺しにした。