第1章 出会いのお話
「ありがとう、那霧」
面と向かって礼を口にすれば、ぎょっとしたように身を引いた。
珍獣でも見るような目つきをしている。
「これは取引だ。なぜ感謝するんです?」
「人になにかしてもらったら、ありがとうを言うのは礼儀だ」
「……そんなの、知りません」
「覚えておけ。礼を言えない人間にはなるな」
「偉そうに」
また顔に手が伸びてくる。
今、両目を失うわけにはいかない。
避けようとするが、無限月読の時と同じように身体の自由が利かなかった。
「那霧、まだ……」
「ふん」
指先は瞼の中ではなく、瞼の上に添えられた。
温かい力が流れこみ、左目がほんのりと熱くなる。
「なんだ……?」
「兄さんの左目にも六道眼が……」
「なぜ俺に……」
「おまけ。
少しの間、力を貸与してあげます」
これは写輪眼とは違う、異質なものだ。
チャクラで制御しようとしても弾かれる。
「イタチ、使いこなせそうか?」
カカシの問いに答えることができなかった。
同じ瞳術の一種とはいえ、まるで使い勝手が分からない。
「写輪眼は年月を経て独自に進化したもの。
こちらはいわば原初そのままの力。理も異なる」
「……どうすればいい?」
「チャクラの存在は忘れてください。
使うのは第六感と想像力です」
「具体的には?」
「具現化したいものを頭の中で想像して、実際に出現させる。
この部屋のようにね」
手順だけ聞くと単純だ。
極論、変化の術と同じようなものだろう。
手始めにクナイを想像して、左目を通して出現させるようなイメージをするが――。
「……これはこれは」
黒い靄のようなものが、ふわりと地面に浮かぶ。
「もっとはっきりイメージしてください」
「……」
靄は黒い鉄の塊のようなものに昇格したが、形も歪でなんだか分からない。
那霧がつつくと、グミのようにぐにゃぐにゃと形を変えた。
「もう少し具体的に。粘土で形を作るようなイメージで」
三度目の正直だ。
眉間に皺を寄せながら、使い慣れた武器をイメージする。
鉄の塊はゆっくりと形を変え――。