第1章 出会いのお話
「那霧……」
夢の中で別れる直前、教えてくれた彼の名前を紡ぐ。
彼は薄く笑みを浮かべて、ゆっくりと瞳を細めた。
猫というより、狡猾な蛇を想起させる表情だ。
「あなたの身体を使って会いに行くつもりでしたが……まあいい」
那霧はマダラを見やり、さらに口角を上げる。
憎悪に染まりきった歪んだ笑みだ。
「ようやく復活か」
マダラの様子がおかしい。
自分を含め、誰もが身構える中、那霧は悠然と眼前を見据えていた。
「お前は何者だ?」
「あなたには関係のないこと」
「俺が生き返ったのは、お前の力だな……?」
「どうでしょう。
……ほら、始まりますよ」
――マダラの身体を踏み台にして現れたもの。
それは、白い鬼だった。白眼を有している謎の女。
彼女はただ佇んでいるだけだというのに、雰囲気に気圧されて肌がひりつく。
「条件は揃った。これなら……」
那霧の目的は分からない。
しかし、彼女の関係者であることは間違いないだろう。
白い鬼――カグヤの力で空間が歪む。
それと同時に、那霧も虚空を見つめて一歩踏み出した。
「それでは」
青年は颯爽と去ろうとする。
そんな彼の襟首を、イタチは素早く腕を伸ばしてがしりと掴んだ。
「ぐえっ……!」
「どうせなら、闇の底まで付き合え」
自分達が知りえない情報と未知の力を持っている彼。
この絶望的な状況で、彼の存在は希望にもなり得る。
そんな打算的な考えももちろんあったが、引き留めたのはそれだけではない。
イタチを死の淵から掬い上げ、夢の中に突き落とし、また手を差し伸ばした。
彼は何者なのか、目的は、意図は、
問い詰めたいことが山ほどあった。
ここで逃したら、二度と会えない気がした。
「は、はなせ!」
首根っこを掴まれた彼はイタチを睨んだ。
もう遅い。空間が捻じ曲がり、足場が不意に消える。
緊張感のない呻き声を聞きながら、イタチは真っ直ぐに世界を見据えていた。