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数奇なえにし【NARUTO】

第1章 出会いのお話


無我夢中で歩いていると、辿り着いたのは神社の前だった。
鳥居に寄りかかるようにして青年はイタチを待っている。
鳥居の向こう側には、あるはずの社がない。代わりに果てしない闇が広がっていた。

鳥居は、俗界との境だと聞いたことがある。
ここから先は神域。穢れを持ち込んではならない清浄な場。
しかし、この先は神域には程遠く、目に見えるほどの澱みが渦巻いていた。
耳を澄ますと、苦悶や救いを求める声が届いてくる。

――この鳥居をくぐれば、二度と帰っては来ることはできない。
これもまた理由のない確信だった。


「この世界は、苦しみに満ちている」


青年は無表情で、品定めするようにイタチを見つめている。
左顔面を髪で隠しているが、目鼻がくっきりして端正な顔立ちだ。


「だが、救いもある。人間道はそういう世界」


青年になにか言おうとするが、言葉にならない。
締め付けられたように胸が苦しい。大切なことを忘れている気がする。
頭の中を無理やりかき回されたような不快感で、今にも倒れこんでしまいそうだ。


「……」


息を荒げているイタチに、青年は静かに手を差し伸べた。
自分はこの手を知っている。とても冷たかった、はずだ。


「どうしてあの時、僕の手を取った」


「……なんの話だ」


「まだ生きていたかったからでしょう」


「俺は……」


思い出したくない。なにも思い出したくはない。
それなのに、青年の声が深く胸を抉る。
高くも低くもない、硬質な声がさらに言葉を紡ぐ。


「欲しいなら掴め」


「……っ」


「多くの物を切り捨ててきた。
だけど、まだあるはず」


木枯らしが吹きすさび、青年の髪を翻した。
妖しさを宿した赤い瞳が垣間見える。直感的に人の姿をした魔物だと悟った。


「……っ」


「何十年も胸に仕舞いこんでいた願い。
そして、血の繋がった唯一無二の――」


心臓が強く脈打つ。言いしれない衝動が全身を震わせる。
縋りつくように青年の手を掴んだ。
やはり冷たい。だが、ちゃんと血の通っている手だ。
強く握り返されると同時に、頭の中で殻が割れたような澄んだ音が響いた。
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