第1章 出会いのお話
那霧はタイミングを見計らって、彼の身体に憑依した。
目を開けると、棺のようなものに閉じこめられている。
手元にあった刃物――クナイを使って力づくでこじ開けると、気味の悪い光景が広がっていた。
見渡す限り一面に、人が樹木に囚われてぶら下がっている。
いつまでもこんな場所にいたら気が滅入りそうだ。
「……やはり僕は術にかからないようだな」
空を見上げるが、特に変化は起きなかった。
六道眼のおかげで、この世界の幻術にかかることはないようだ。
写輪眼や白眼はこの世界で脈々と受け継がれてきたものだが、この目は違う。
ありとあらゆる世界で転生を繰り返し、持ち主と共に滅びてきた。
その過程で、この目を構成していた力――チャクラは失われたのだろう。
この世界の幻術は、チャクラに干渉して発動するものだ。
この仮の肉体――イタチという青年の身体にはチャクラが流れているが、那霧の魂にまで幻術は侵食できないらしい。
「さっさと目的を果たして帰ろう」
彼――イタチを助けたのは、単なる気まぐれだけではない。
この六道眼の本来の持ち主――自分の生みの親に文句を言うためだ。
カグヤの封印が緩んだタイミングなら、あの女に会いに行ける。
たとえこの世界が滅亡しようが、那霧は干渉するつもりはなかった。
「イタチ!」
しわがれた声に呼びかけられて振り向く。
歴代の火影もまた幻術から逃れていたようだ。
自分を呼び止めたのは三代目のようだ。
「……」
答える必要はないと判断し、背を向ける。
自分には関係のない話だ。
身体の持ち主は幻術に囚われている。
たとえどれだけの苦痛に耐えられても、幸せな夢から逃れることそうそうできない。
それは、この青年も例外ではないようだ。
精神の奥底で、仮初の世界を謳歌している。
「幸福を捨てる勇気があるのかどうか、試させてもらいますよ」
胸の奥に青年の思念を感じながらマダラの元へ向かう。
カグヤの封印が解ける条件は揃っている。後はタイミングを待つだけだ。