第3章 煌帝国
「んー……でも、僕は嫌だなぁ。お前のこと『猫』って呼ぶの」
「どうして?ボクは『猫』。それでいいんだよ。あんたにどうこう言われる筋合いはないと思うんだけどな」
それに、ボクに名前があったところで呼ぶ機会なんてないでしょ、と付け足す。
「それはわかんないよー?僕、お前のこと気に入ったからさぁ」
「紅覇」
「えー、いいでしょ炎兄ー」
ぷくーっと頬を膨らませる紅覇。
「どうせこの部屋空いてるじゃーん。面倒なら僕が看るからさぁ」
「……」
「いいでしょー?炎兄」
はぁ、とため息をついて。
「好きにしろ。お前はこうなると止められんからな」
「やったー!じゃあ、よろしくねー!」
と、満面の笑みを向けられても。
何が、なんだか。
「一体、何の話を、」
「だーかーらー、お前は今日からここで暮らすのー。名前も僕がつけてあげるよぉ」
「な……っ」
その時のボクは余程呆けた顔をしていただろう。
僕が、煌帝国の宮殿で、
皇族に囲まれて、暮らす……?
そのとき、
体の奥の何かがざわめいた。
誰かが、囁く。
≪運ガ向イテ来タミタイダネ≫
≪殺シテヤレ≫
殺す……誰を?
「名前、明日までには考えとくよぉ、楽しみにしててねぇ」
無邪気な笑顔を浮かべる紅覇?
少し不機嫌そうにこちらを見下ろす紅炎?
……二人とも?
考えると頭がぼんやりする。
全身が倦怠感に包まれた。
心地よい眠気がボクを襲う。
それを察したのか、紅覇の手が、ボクの瞼をそっと閉じさせた。
「疲れちゃったかなぁ?おやすみぃ」
少年の手の温もりを感じながら、
ボクは、眠りに落ちた――