第17章 東京卍リベンジャーズ・佐藤龍星&菱小次楼
あの夜、意識を無くすほど殴られた母親の再婚相手の男は、小次楼のことを警察沙汰にはしなかった
自分の私への言動を周りに知られるのが嫌だったのだと思う
アイツは全てを無かったことにして、変わらず家に居続けた
けれど、私への態度はこれまでと180度違った
身体に触れてくるどころか、声を掛けてくることも無くなり
私とは極力関わりたくないといった感じで、怯えたような視線を向けてくるだけになった
それはそれで居心地の良いものではなかったが、以前よりはずっとマシで
私はまた少しずつ自宅へ帰るようになった
龍星との間に何があったのか
小次楼が私に話してくれることはなかった
けれど
龍星が姿を見せなくなってからも、小次楼は私がこの部屋に来ることを黙って許してくれた
小次楼本人がアパートに居る時間はとても少なくて
前みたいに私の作った料理を一緒に食べることも、たあいの無い話をして笑い合うことも、めったになくなってしまった
ここに来ると、いつも私はドアの横のポストに無造作に入れられている合鍵を使って勝手に部屋に入り
小次楼の帰りを待ちながらひとりで時間を過ごした
彼が帰って来るのはたいてい真夜中を過ぎた頃で
たまに、朝方になる時もあった
家に帰って来た小次楼は
玄関に私の靴を見つけると、真っ直ぐに布団の方へと歩いてきて、隣に潜り込んでくる
『…おかえりなさい』
「……ン……………はぁ…あったけぇ…」
『…わ……小次楼の手、つめた〜』
「今日スゲー寒かった。…マジで全身冷え切っちまったワ」
『…クスクス……当たり前でしょ?もう冬なんだから…』
小次楼の方へ身体を向けて、両手で冷たい頬を包む
覗き込んだ彼の瞳に狂気が宿っていないことを確かめて、私はホッと息をついた
(…良かった。…今夜も大丈夫だ…)