第1章 出会い
「他は、何も知らないんだね。」
「……うん。ただ、私がおじさんを喜ばせた後は、すごく嬉しそうな顔をしてるの、お母さん。だから、私も嬉しく…」
最後まで、聞きたくなかった。
無意識に少女の口に、革の手袋をつけたまま押しつけて言葉を遮った。
もう、わかった。
それ以上、何も言わないでいい。
そう視線で訴えると、少女は何も話さなくなった。
…とても感の良い娘のようだ。
「着替えろ。」
短く言葉にすると、少女は表情でなんで?と問いかけてくる。
それには答えず、彼は少女の口許から手を放し、急げとだけ伝える。
不思議そうにしながらも、少女は抵抗することなくそばに置てある薄い部屋着にそでを通した。
さすがにそれだけでは寒いだろうと、厚手の服を探してみるが
ここにはクローゼットというものがないように見て取れる。
隣の部屋へ続く扉を開くも、そこはトイレとお風呂のみ。
「他の服はないのか?」
「他?これだけで暖かいから。必要じゃないから」
いや、外に出かけるときに使うだろう…。
そう言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
ここ半年以上、この屋敷の出入りを観察して調査してきた彼には分る。
少女が屋敷を出入りすれば、娘の存在を確認しようとするはず。
だが、そんなことはなかった。
夫婦に出生届を出した痕跡も、養子縁組をしたという痕跡もなかった。
少女の痕跡は、半年以上見つからなかった。
……つまり、少女は少なくとも半年以上この屋敷から出たことはないという事。
外着なんて、必要ないと買い与えられてないのだろう。