第57章 バタービール
一瞬だけ、視線が交わる。
玄関ホールでのハリーとの口論。ネビルとの一件。湖畔で交わした会話。
そんな出来事が脳裏をよぎった。
ドラコは何も言わなかった。ただ、ほんのわずかに口角を上げる。
いつもの人を小馬鹿にしたような笑みにも見えたし、何かを見透かしたような表情にも見えた。
「……」
ミラは眉をひそめた。
けれど、ドラコはそれ以上何もせず、くるりと背を向ける。
「行くぞ」
ぶっきらぼうにクラッブとゴイルへ声をかけると、三人は地下牢へ続く道へ消えていった。
「ミラ?」
ハリーが不思議そうに声をかける。
「どうしたの?」
「……ううん」
ミラはドラコの背中が見えなくなった先を見つめ、それから小さく首を振った。
「なんでもない。私たちも行こう」
「お腹いっぱいで眠くなってきたよ」
「ロン、それさっきも言ってたわ」
ハーマイオニーが呆れたようにため息をつく。そんな二人のやり取りに、ハリーが小さく笑った。
グリフィンドール生の賑やかな声に紛れながら、ミラも歩き出す。
胸の奥には、ドラコの最後の表情がわずかに引っかかっていた。――あれは、何を意味していたのだろう。
答えはわからないまま、ミラは談話室へ続く階段を上っていった。