第57章 バタービール
いつものようにグリフィンドール塔へ続く通路を歩いていた時だった。
「……なんで、みんな入らないんだろう?」
『太った婦人』の肖像画へと続く廊下まで来たところで、ミラは思わず足を止めた。
廊下はグリフィンドール生たちでごった返している。誰も談話室へ入ろうとせず、ざわざわと不安そうな声が飛び交っていた。ミラは背伸びをして、生徒たちの頭の隙間から前方を覗き込む。
「……肖像画、閉まったままだ」
「何かあったのか?」
ロンも眉をひそめる。
「通してくれ、さあ!」
後ろから聞き慣れた声が響いた。
「何をもたもたしているんだ? 全員そろって合言葉を忘れたわけじゃないだろう――ちょっと通してくれ。僕は首席だ!」
パーシーだった。胸を張りながら人混みをかき分け、肖像画の前へと進んでいく。
しかし、パーシーが『太った婦人』の前まで辿り着いた瞬間――ざわめきが、すっと静まり返った。
「……誰か、ダンブルドア校長を呼んで! 急いで!」
鋭い叫び声が廊下に響く。
生徒たちは顔を見合わせ、後ろの方では何が起きたのか見ようと爪先立ちになる者もいた。
「どうしたの?」
ちょうどやって来たジニーが、不安そうに尋ねる。
「わからない。パーシーがダンブルドア校長を呼んでって……」
ミラが答えた、その時だった。まるで最初からそこにいたかのように、ダンブルドア校長が姿を現した。
生徒たちは慌てて道を開ける。ミラたちも何が起きたのか確かめようと、できるだけ前へ進んだ。
「ああ……なんてこと……!」
ハーマイオニーが息を呑み、思わずハリーの腕を掴んだ。
「……っ」
ミラも言葉を失った。
『太った婦人』の姿は、そこにはなかった。
肖像画は無惨に切り裂かれ、キャンバスの破片が床一面に散らばっている。
鋭い爪で引き裂かれたような深い裂け目。原形を留めないほど傷ついた絵は、見る者の背筋を凍らせた。
「誰が……こんなこと……」
誰かが震える声で呟いた。
ダンブルドア校長は、深く沈んだ眼差しで荒らされた肖像画を見つめていた。
そこへ、マクゴナガル先生をはじめ、ルーピン先生、スネイプ先生も駆けつける。
「夫人を探さねばならん」
ダンブルドア校長は静かな声で言った。