第57章 バタービール
見上げると、そこにはスラっと背が高く、肌が色黒い少年が立っていた。ミラはその少年を見て、どこかで見た顔だなと思った。
彼は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに申し訳なさそうに肩をすくめる。
「ちゃんと前を見てなかった」
「……」
「立てるか?」
そう言って、ザビニはミラへ手を差し出した。
すると、その後ろにいたスリザリン生たちが一斉に騒ぎ始める。
「おおーっ!」
「紳士だな、ザビニ!」
「グローヴァーだからか?」
「明日は雪かもな!」
ゲラゲラと笑い声が上がる。
ザビニは「うるさい」と後ろを睨んだが、面白がる声はなかなか止まらない。
ミラは差し出された手とザビニの顔を見比べた。
「--大丈夫、私もちゃんと前を見てなかったし」
そう言って、自力で立ち上がろうとした。しかし――ぐらりと、視界が揺れた。
(しまった)
まだ酔いが完全には抜けていなかったようだ。身体が思った以上にふらつきそうになる。
「ミラ!」
その瞬間、左右から腕を掴まれた。ハーマイオニーとロンだった。
「ほら!」
「行くぞ!」
二人は有無を言わせない勢いでミラを支える。
「え、ちょっ――」
「大丈夫じゃないでしょ!」
ハーマイオニーがミラのこっそり言う。
「さっきまで歩くのも大変だったんだから!」
「その通り!」
ロンも力強く頷いた。
そして二人はミラの両腕を確保したまま歩き出す。
「行きましょ!」
「ほらほら!」
「いや、だから私歩け――」
抗議の言葉は最後まで言えなかった。そのまま引っ張られていく。後ろではスリザリン生たちが面白そうにその様子を見ていた。
「過保護だなぁ」
「グリフィンドールってみんなあんな感じか?」
「グローヴァーのガードは硬いな」
囃し立てる声が聞こえる。
ザビニは去っていく三人の背中を見ながら、差し出したままだった手を引っ込めた。
「……残念、もう少し話してみたかったのに」
その呟きは、スリザリン生たちの笑い声にかき消された。