第57章 バタービール
「すぐに持っていくわ」
その瞬間だった。
隣のロンが急に黙り込んだ。
「……ロン?」
ミラが横を見ると、ロンの耳がほんのり赤くなっている。
「ロン?」
「な、何でもない」
しかしロンの視線はしっかりロスメルタを追いかけていた。
ハーマイオニーはその様子を見て、深いため息を吐いた。
「……もう」
「?」
ミラは二人を交互に見た。
しばらくして運ばれてきたバタービールを受け取り、三人は空いている席へ腰を下ろした。湯気の立つジョッキを両手で包むと、甘くて温かい香りが鼻をくすぐる。
「美味しい……」
ミラが一口飲む。
だが向かいのロンは、なぜか店内を見回してばかりいた。正確には店主のロスメルタを。彼女が別の客のところへ行けば視線が追い、カウンターへ戻ればまた追う。
ハーマイオニーはとうとう額を押さえた。
「ロン、バタービール飲んでるの?それともロスメルタさんを眺めに来たの?」
「ゴフッ!?」
ロンがむせる。
「そ、そんなことないだろ!」
「そうかしら」
ハーマイオニーは呆れたように眉を上げてツンと冷たい声で言った。ロンは顔を真っ赤にしながらジョッキに口を付ける。
ミラは二人を見比べた。どうやらこのままだと、また変な言い合いになりそうな気がして、話題を変えることにした。
「そういえば、二人とも。行きたかったお店はどうだった?」
ハーマイオニーはすぐに食いついた。
「聞いて!本屋さんで面白い本を見つけたの。魔法生物の研究書なんだけど――」
途端にハーマイオニーの表情が明るくなる。
ロンは助かったと言わんばかりに大きく息を吐いた。
三本の箒亭の賑やかな空気の中、三人はそれぞれのホグズミードでの出来事を話し始めた。外では冷たい秋風が吹いていたが、店内は暖炉の火と人々の笑い声で満たされていた。