第57章 バタービール
三本の箒亭に着く頃には、外の空気はすっかり冷たくなっていた。
木製の看板が風に揺れ、窓からは温かな灯りが漏れている。扉を開けた瞬間、三人を包み込んだのは暖炉の熱気と、人々の賑やかな話し声だった。
「わあ……すごい人」
ハーマイオニーが思わず呟く。
店内は満席に近かった。魔法使いたちが肩を寄せ合って談笑し、笑い声があちこちから聞こえてくる。大きな髭を生やした魔法使い、年老いた魔女、旅人らしいローブ姿の客まで様々だ。
ミラが店内を見回していると、ハーマイオニーが小声で言った。
「ねえ、あそこ……オグル(人食い鬼)じゃないかしら?」
「どれ?」
視線の先を見ると、暖炉近くの席に、異様に大柄な客が座っていた。毛むくじゃらの腕は丸太のように太く、顔の半分が髭で隠れている。
「本当に?」
「わからないけど……そう見えたの」
ロンはちらりと見ただけで肩をすくめた。
「オグルならもっと臭うんじゃないか?」
「ロン!」
ハーマイオニーが眉をひそめる。
「冗談だって」
三人はなんとかカウンターへ辿り着いた。
そこに立っていたのは、三本の箒亭の店主であるマダム・ロスメルタだった。
長い黒髪を後ろでまとめ、笑顔を浮かべながら客たちの注文を捌いている。忙しそうに動いているのに、不思議と余裕があるように見えた。
「いらっしゃい」
ロスメルタが微笑む。
「バタービールを三つお願いします」
ミラが注文すると、ロスメルタはにっこりと頷いた。