第9章 【第六講】留年するなら三年生で生徒会長になるのもアリかもね
「呼び出してすまない。急ぎの用件があってな」
桂は校舎の裏へと○○を連れて来た。
コホンと咳払いをし、チラチラと○○を見遣る。
「まだ練習するんだから、話があるなら早くして」
○○は腕をこまねき、足を踏み鳴らす。
意を決したように桂は口を開く。
「○○殿、生徒会長に立候補しないか」
「は?」
桂の用件は、もうじき行われる生徒会長選挙への立候補推薦であった。
生徒会長選挙が行われることは○○も知っているが、自分には関係がないことだと思っていた。
「しないし。するわけないし」
「ナゼだ! ○○殿は俺の……いや、男子生徒の憧れの的! 模範となるべき生徒の中の生徒! 鑑の中の鑑ではないか!!」
誰よりも○○殿が生徒会長にふさわしいと、桂は力説する。
「本来この世界に存在しない私が、生徒会長なんて出来るはずないじゃない」
生徒会長などという役職に就いてしまえば、今後小説の展開でどう矛盾が生じるかわからない。
剣道部の部長すらも危ういのにと、納得いくようないかないような答えを○○は示す。
「存在しないとはどういうことだ? ○○殿は誰よりもここに……いや、俺の隣にいるべき人物……」
桂の独白を遮り、○○は話を続ける。
「大体、なんでそれが急ぎなの?」
「立候補の締め切りが今日までだと知り、慌てて声をかけに来た」
桂が○○を捜して武道場に来ると、既に部活が始まっていた。
集中して部活に取り組む○○を呼び出すことは忍びなく、終わるまで隠れて覗いていた。
「ずっと見てたの?」
○○はいやーな表情を浮かべる。
「○○殿の胴着姿……美麗であった……」
「さよーなら」
○○は踵を返す。