第8章 【第五講 後半】文化祭といえばライブがつきもの●け姫
「やっぱり、全然頼りにならないじゃない」
視聴覚室を出た○○は沖田に不満を漏らす。
ここまで足を延ばしたのはとんだ無駄骨だった。
「別に俺ァ頼りになるとは言ってねーぜ」
沖田が挙げたのは、我等が担任、坂田銀八だった。
あのズボラ担任に頼んで何になると思ったが、やはり何にもならなかった。
何で俺に言うんだと取り付く島もなく退けられた。
沖田は単に、あの担任が一番ヒマだろうからと名を挙げたまで。
「□□が頼めばひょっとしたら動くかもと思わねーこともなかったけどな。案外使えねーな」
「何それ、私が悪いって言いたいの?」
「色仕掛けでもすりゃァ、籠絡できたかもしれねーだろ」
「誰がそんなことするか!!」
○○は目を吊り上げる。
「とにかく、これからお通ちゃんのライブもあるんだ。先生が当てにならない以上、俺達で生徒を護るしかない」
近藤は沖田と○○の間に割って入る。
土方と○○の言い合いは慣れてしまったものだが、沖田と○○まで険悪になるのは勘弁してほしい。
「寺門通のライブは相当の混雑が予想されるからな。警備の強化はしたいが……」
とはいえ、人員は限られている。
ライブ会場に集結させてしまえば、別の場所が手薄になってしまう。
悪漢が必ずしもライブ会場で悪事を働くとは限らない。
一極に集中してしまうのはリスクがある。
警備配置について土方は頭を悩ませる。
「会場は私達四人で護り抜こうよ」
顔を向けると、○○の笑みが目に映った。
「風紀委員の意地の見せ所だよ」
土方は口角を上げた。
「お前に言われるまでもねェ」
土方は腹を括った。
自分と○○と近藤と沖田。風紀委員が誇る精鋭達。
一人で他の委員の二人分、いや、三人、四人分の働きが出来るはず。
「あのー、俺もライブ会場でいいんですよね?」
背後からの声に四人は振り返る。
「山崎、いつからいたの」
○○は目を丸くする。
「教室からずっと後ろ歩いてたんですけど……」
風紀委員の誇る精鋭――に山崎を加えてよいかは不明だが、会場警備は四人から五人となった。