第20章 【第十六講】『やっぱり』猫『が好き』
その後も銀八は現れず、3Zのドタバタは収まらない。
一限から行われる健康診断は担任が引率することになっている。
とうとう一限始業のチャイムも鳴ってしまった。
「これはいよいよおかしいぜ。近藤さんの席で作戦会議でもするか?」
銀八が現れないことを不審に思い、土方は提案する。
「何の作戦会議よ。ただの遅刻でしょ」
普段あまり遅刻をしないからと言って、あの教師ならば遅刻をしても不思議はない。
「いや、遅刻とは思えねェ。何か理由があるはずだ」
○○は怪訝な顔で土方を見上げる。
「土方くん、そんなに銀八先生のこと信頼してたっけ?」
どちらかといえば、反面教師として見ている節がある。
「い、一応担任だしな」
土方は口を籠らせる。
本当はあの担任のことは毛程も信頼などしていない。
ただ、○○と話す口実を欲しているだけ。
「風紀委員でこの謎を追うぞ」
「何で――」
確証もないのにそんなことをしなければならないのだ。
そもそも事件に巻き込まれたのだとしても、風紀委員の出番ではない。
そう言おうとした○○だったが、扉が開く音が聞こえ声を止めた。
ようやく銀八がやって来たのかと思い目を向けたが、いつも入って来る前方の扉はしまったままだった。
開いたのは後方の扉。そこにいた人物を見て、○○は目を丸くする。
「珍しいな。こんな時間から」
逆に土方は目つきを鋭くした。
入って来たのは高杉だった。
高杉が教室に現れることはもはや日常となっているが、一限が始まったばかりのこんな時間に来ることは稀だ。
朝から教室にいたのは、神威との抗争翌日、公園で○○と会ったあの日だけだったかもしれない。
高杉は席に着いた。
「やっぱり、事件かも」
胸騒ぎがする。胸がザワザワしている。
それは事件の兆しでは、決してない。